耳鼻咽喉科は、耳と鼻とのどと比較的狭い領域を担当する診療科と考えられがちですが、実際は首から上で神経内科や脳神経外科が担当する脳と脊髄、眼科が担当する眼球を除く頭部および頸部の広範囲にわたる領域を担当しています。また、担当する領域が広いということだけではなく、風邪や花粉症、鼻出血、中耳炎、めまいなど、どなたでも一度は経験したことのあるような疾患の診療(プライマリケア)から、聴力改善手術や頭頸部の治療などの専門性の高い診療まで大変幅広い診療内容を特徴としています。このような診療内容から、最近では耳鼻咽喉科・頭頸部外科と呼ばれるようになっています。
 耳鼻咽喉科のもう一つの特徴は、生活の質(quality of life)に直接影響する機能を担当していることです。21世紀の日本は世界にも類をみない長寿国となっていますが、高齢期の生活を楽しめなければ意味はありません。豊かな生活のためには感覚器と運動器の機能、咀嚼・嚥下と音声・言語機能が不可欠です。耳鼻咽喉科では5感と呼ばれる感覚機能のうち、聴く(聴覚)、匂いを嗅ぐ(嗅覚)、味わう(味覚)の3感と、自分の足で歩くためのバランス感覚(平衡覚)を担当し、また美味しいものを噛んで飲み込む嚥下機能と家族や仲間と会話を楽しむための音声・言語機能も診療範囲としています。このように、耳鼻咽喉科は生活の質の向上のために大変重要な役割を担う診療科ということができます。
 近年の医療技術の進歩はめざましく、各領域、各疾患の診断および治療の技術も専門分化しています。当科では専門分化した耳鼻咽喉科・頭頸部外科疾患全般において最新の医療を提供できるように各専門分野のエキスパートを診療スタッフとして揃えています。また、各疾患に応じて各専門診療科の医師や耳鼻咽喉科内でも看護師、言語聴覚士、臨床心理士と連携した「チーム医療」として対応するのが当科の大きな特色であり、各領域の専門技術を結集して緊張感のある診療を行っています。
 このように耳鼻咽喉科・頭頸部外科という幅広い領域で最新の医療を提供するためには、専門分化した各領域の診療を担うための深い知識と高い診療技術のみならず、優しさと倫理観を有する豊かな人間性を有する人材を育成することが最も重要です。当科では当院の診療スタッフに加え、約30の教育関連病院のスタッフを含めた110名の教室員が一丸となって診療と研究、教育という医療における3つの柱をバランス良く発展させることを心掛け、国際的にもトップクラスといえるような最新の医療を目指して日々切磋琢磨しています。
 外科的治療として中耳炎、真珠腫、耳硬化症などを対象とした聴力改善手術、感音難聴を対象とした外リンパ瘻手術、人工内耳埋め込み術、聴神経腫瘍に対する顔面神経・聴力保存手術、陳旧性顔面神経麻痺に対する顔面再建手術、鼻・副鼻腔疾患に対する内視鏡手術、唾液腺腫瘍を対象とした低侵襲手術、声帯ポリープや声帯結節などを対象とした音声改善手術、喉頭癌や下咽頭癌における音声保存手術、上顎癌や口腔咽頭癌に対する根治切除・遊離皮弁再建術など、全般的に形態および機能保存手術、低侵襲・短期入院手術に取り組んでいます。感音難聴や耳鳴、めまい、および心因性難聴や機能性音声障害などの心因性疾患に対する治療にも積極的に取り組んでおり、耳鼻咽喉科専属の言語聴覚士と臨床心理士とのチームで特色ある診療を行っています。
 治療成績:年間の初診患者は約6000名、年間手術件数は入院全身麻酔手術約800症例(延べ手術件数1000件)で、局所麻酔手術や外来小手術も含めると1200件を越えています。内訳は、鼓膜形成術、鼓室形成術、アブミ骨手術、人工内耳埋め込み手術などの聴力改善手術約180件、聴神経腫瘍などの頭蓋底手術約20件、鼻・副鼻腔内視鏡手術約240件、喉頭マイクロ手術約150件、耳下腺などの唾液腺手術約60件、頭頸部悪性腫瘍手術約100件などです。

突発性難聴、急性低音障害型感音難聴を初めとする急性高度難聴に対しては難聴の程度に応じて外来または入院にてステロイドおよびプロスタグランディン製剤による保存的療法を行っています。最近は突発性難聴に対する鼓室内薬物局所投与療法も開始しました。外リンパ瘻は内視鏡検査を含めた総合的診断を行い、手術的治療も積極的に行っています。慢性感音難聴でステロイド依存性感音難聴など長期のステロイド投与が必要な症例にしては漢方薬を併用することでステロイド薬の減量を実現しています。また慢性感音難聴のうち遺伝性素因の関与が疑われる場合は遺伝子検索および遺伝相談を含めた対応を行っています。小児難聴および言語障害も専門医と言語聴覚士による専門外来にて対応しており、口唇口蓋裂児の難聴・言語障害は形成外科、小児科および歯科口腔外科とのチームにより優れた成績をあげています。

耳鳴に対しても積極的に取り組んでおり、特に慢性耳鳴に対しては原因疾患に対する治療の他にも臨床心理士による心理治療や自律訓練法を行い、症例に応じてTRT(tinnitus retraining therapy)などの新しい治療法を行っています。

伝音難聴の内、慢性化膿性中耳炎や真珠腫性中耳炎、耳硬化症に対しては1週間の短期入院で聴力改善手術を積極的に行っています。剃毛をしない工夫で早期の社会復帰を可能にしています。特に耳硬化症などの伝音難聴に対するアブミ骨手術は独自に開発した人工耳小骨を用いた手術を行い、日本でもトップクラスの手術件数です。

人工内耳埋め込み手術は成人例を中心に行い、各種人工内耳を選択できるよう設備を整えています。言語聴覚士と臨床心理士を加えたチームによるきめ細かい術後のリハビリが特徴です。

めまい症の内、良性発作性頭位性めまい症(BPPV)に対しては独自に開発した眼球運動の解析法により詳細な病巣診断を行い、症例に応じた適切な理学療法を行い優れた治療成績をあげています。メニエール病に対しては臨床心理士による心理療法により発作予防を行い、難治症例に対しては鼓室内薬物局所投与療法も導入しています。

顔面神経麻痺に対して急性期にはステロイド大量療法を基本として、改善不良例に対しては顔面神経減荷手術も積極的に行っています。陳旧性の顔面神経麻痺に対しては独自に開発した顔面運動評価法を基に、眼科、形成外科とのチームで総合的な顔面再建手術を行っています。

慢性副鼻腔炎に対しては1週間の入院で内視鏡下手術を行なっています。鼻中隔矯正術などによる鼻腔整復も含めた一期的手術を基本として低い再発率を実現しています。また、鼻アレルギーや鼻ポリープなどに対しては日帰りまたは1泊2日の内視鏡レーザー手術を行なっています。

睡眠時無呼吸症候群に対しては呼吸器内科、麻酔科、歯科との連携で症例に応じた治療法を行っています。特に手術的治療としては独自の粘膜Z再建による軟口蓋形成術が特徴です。

音声障害に対する手術治療も当科の得意分野の一つで、声帯ポリープや声帯結節に対しては2泊3日で喉頭マイクロ手術を行なっており、プロ歌手も対象にしています。喉頭乳頭腫に対しては喉頭マイクロ手術と再発予防の漢方治療を併用する独自の治療法を行っています。反回神経麻痺に対しても喉頭形成術、独自に開発した注入療法をはじめとして積極的に音声改善手術を行なっています。各種機能性音声障害に対しては言語聴覚士と臨床心理士とのチームで心理治療を含む保存的治療を行い良好な成績をあげています。

頭頸部癌の進行例に対しては手術療法と放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的治療法を基本として行っています。音声、嚥下、咀嚼などの機能保存を目標にして症例に応じた化学療法を行うことにより、手術切除範囲を最小限にできるように治療法を工夫しています。喉頭癌に対する音声保存の喉頭部分切除術も当科の特徴的な治療法であり、従来喉頭全摘出術が行なわれていた症例にも、喉頭亜全摘出術を施行し喉頭温存を図っています。また、頸部リンパ節転移に対しては後遺症の少ない保存的頸部郭清術を行っています。機能再建に関しても形成外科とのチーム医療により良好な成績をあげています。これら頭頸部癌治療後の音声、嚥下、咀嚼機能改善や疼痛コントロールに際しても看護師、言語聴覚士と臨床心理士とのチームで対応しており、心理的サポートも行いながらQOLの向上を目指しています。

聴神経腫瘍の診断・治療も当科として力を入れてきた分野であり、日本でも有数の手術症例数を誇ります。脳神経外科とのチーム医療で独自に開発した拡大中頭蓋窩法、各種神経機能モニタリング法による顔面神経機能・聴力保存手術を基本的に行なっています。同様の術式による各種頭蓋底腫瘍の手術も積極的に行なっています。

耳下腺腫瘍の手術症例数も多く、約1週間の短期入院で、顔面神経、大耳介神経などの神経機能保存手術を行なっています。

2010年度 手術件数(概略)
耳科手術
221件
鼻科手術
214件
喉頭手術
193件
頸部手術
210件
その他
182件
1020件


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